創作小説
黒鴉将軍コルヴィヌス外伝 盗賊と紋章
4.
キケロのあとを付いて行くとやがて大きく拓かれた場所に出た。かなり古びた丸太小屋が一軒ポツンと建っている。どうやら昔猟師が使っていたのだろう。今はそれを盗賊どもが根城として使っているということだ。多くの馬がその手綱を杭に抑えられているが、その脇には先程奪われた馬車も繋がれている。どうやら上手くいったようだ。キケロをその場に残し、エルネストは一人、山小屋に近付いた。
「上手く細工が効いていれば、何もしなくても全てが終わっているはずなんだが」
エルネストは独白し、山小屋の中を窓越しに窺った。
小屋の中は、四つん這いになって、もがき苦しむ盗賊たちの姿で埋め尽くされていた。
「効いてる効いてる」
それを覗き見て薄い笑いを浮かべたエルネストは、ポケットを探って空になった瓶を握り締めた。瓶に詰められていた液体を、盗賊たちに獲られた食料全てに塗り込んでいたのである。瓶の中身は、ある種のキノコから絞り出した汁を集めた嫌酒剤である。この液体を体に吸収すると、体内で酒と反応し酷い苦痛を与えるようになっている。このことから、酒を嫌いにさせる為に、使われるようになっていた。
それを、エルネストは悪用したのである。
エルネストは、気を抜いて堂々と扉から小屋の中に入った。
床に転がっている盗賊の一人に近付き、腹を蹴飛ばす。
「頭目は何処だ?」
「……てめぇ、なに……もんだ? ……ころすぞ」
腹を蹴られた盗賊は、悪態をついた。
「そんな床に転がった状態でいわれても、怖くともなんともないな。で、頭目は?」
エルネストは、庇っている手を足で払いのけて、先程より強めに腹を蹴る。
「……勘弁……てください。……あっち、です。……一際、苦しん……る髭面の、男です」
「あの赤い皮鎧を着込んでいる奴か?」
「そう、……です」
小屋の中央の焚き火を迂回して小屋奥へ向かう。のた打ち回っている盗賊の輩を踏んづけては、彼らに苦しそうな悲鳴をあげさせた。
目的の男のもとに辿り着く。髭面の男は、たくさん食べ過ぎたのであろう、嫌酒剤がしこたま効いているのか、嘔吐し喉と腹を抑えて目に涙を浮かべていた。
「おい。お前が頭目か」
エルネストは、頭目と思しき男の頭を蹴る。
「……そうだ。俺が……頭目だ」
今までの騒ぎを、確りと認識していたのであろう。無駄な抵抗はせずに素直に答えた。
「旗は?」
「……そこだ」
頭目が顎で示す位置に、確かに旗が存在した。エルネストは確認すると再び頭目に問い掛ける。
「お前、皇帝の庶子か?」
「……ちが……う。ただの……盗賊だ」
「そう触れ回っていたのは、誰の知恵だ? お前か?」
「…………」
エルネストは、黙り込んだ頭目の丸まっている背中を軽く蹴る。
「……ジェ……ラルド」
「誰だ? 副頭目か?」
頭目は、声を出さずに頷いた。
「理由は?」
「その方が、……活動しやすい……からと。……ある日、俺っちの……盗賊団に話を持ちかけて……きたんだ。その旗を……携えて」
「何処だ? 副頭目は、何処に転がっている?」
エルネストは、頭目に訊ねた。
「あっちだ。あっち」。
頭目の示す方向に向いていたエルネストは、背後に殺気を感じ、咄嗟に横に飛びのいた。
振り向くと、剣を抜いた男が立っていた。
「お前がジェラルドか?」
エルネストの問いに、男が頷く。
「何故、お前は平気に動く事ができる?」
重ねて、エルネストはジェラルドに訊ねる。
「俺は、このような胡散臭い罠に引っ掛かるほど、愚かではない」
ジェラルドは鼻で笑った。それを聞きながら、エルネストは剣を抜いて構える。
「では、最期まで抵抗するか?」
「……そして無駄な抵抗をするほど愚かでもない。投降しよう」
ジェラルドは剣先を下げ剣をその場に投げ捨てた。
拍子抜けしたエルネストは、剣先をジェラルドに向けたまま問う。
「盗賊は理由如何に問わず、捕まれば縛り首だぞ。それでも抵抗しないと言うのか?」
「……そうだ、バカな事を……ほざいてないで、こいつを……殺せ」
蹲ったまま頭目は、ジェラルドに命令する。
「もう、お前の役は終わった。お前の命令をきく必要はない」
ジェラルドは、頭目に近付くと、力任せに顔を蹴り飛ばした。頭目は情けない声をあげて、気絶した。ジェラルドは満足げに、エルネストのほうを向くと口を開いた。
「さぁ、投降しよう。旗を押収し、俺達を捕縛しろ」
「ああ、そう急かさないでも捕まえてやるさ。でもその前に、確認しないとな」
エルネストは、ジェラルドの話を聞き流しながら旗に近付くと、屈んでその旗を手に持った。
「…………なるほど。……これは、いかんな」
旗を拡げてエルネストは観察して軽く頷くと、その旗を焚き火の中に放り込んだ。
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